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死喰い鳥のザミエル

Day 01 Rusty Red


――ここはどこだ。
ぼんやりした意識と視界が少しづつ通常のものに戻っていく。
真っ先に目に入るのは視界の半分以上を覆う蜘蛛の巣。
否、これはひび割れたヘルメットだ。

全身義体でなければ今頃粉塵をたらふく吸い込んで死んでいた。
粉塵を浴びてもある程度なら分解して丸洗いで済む身体に感謝しつつも、
用をなさないヘルメットを外し、状況を確認する。

目の前にあるのは大きなモニターとレバー。
身体はシートベルトで椅子に拘束されている。
しかし、モニターの電源は完全に落ちている上に大きく穴が開き、
殺風景で埃っぽい壁が視界に入る。
レバーは動かしても何の反応も返さない。
……ここは、グレムリンの操縦棺だ。

――思い出す。 未識別機動体の空襲警報が鳴ったこと。
僚機とともにスクランブルしたこと。
そして、戦闘中に突然乗機が操縦不能になり、戦闘不能になったこと。
どうやら、すんでのところで操縦棺ごとの緊急脱出は成功したようだ。

シートベルトをナイフで切断し、あいた穴から外に這い出る。
どこかはわからないが、廃工場のような場所だ。
操縦棺の下半分は衝撃で無残に潰れていた。
こいつが衝撃を吸収してくれたお陰か、自分の身体に損傷はほぼない。

状況を確認すべく、あたりを見回す。
赤く錆びたグレムリンが、お誂え向きに廃工場内に鎮座している。
表面は赤錆で真っ赤に変色している。
だが、腐食でボロボロになっているという風ではない。
こいつはまだ生きている。そんな予感を抱いた。

――その矢先、廃工場内に放送が響く。
「戦線を維持せよ! 我々は……ザザッ、立ち上がるのだ!」

それとほぼ同時、端末が着信を告げる。
はぐれた僚機か?いや、違う。そんな確信を持ち、通話を始める。
一方的な宣戦布告のような通信。しかし、この言葉の続きを何故か知っている。

「「破滅の今際にて、停滞せよ、世界」」
「「世界はいまのままで十分、美しいのだから」」

思わずそれを口ずさむ。端末越しに声が重なった。

――あらためて、くだんのグレムリンを調べるべく接近する。
《顔認証完了。あなたをパイロットとして登録しました。名前を登録してください》
どうやらだいぶせっかちなグレムリンのようだ。それが今は有難くはあるのだが。
「ザミエル」
簡潔に名前だけを口にする。
《名称、ザミエル。声紋登録完了。パイロット登録完了しました。》

廃工場内にふたたび放送が響く。空襲のアラートだ。
「未識別機動体接近中。シュヴァルヴェ・ドライ、数は―――」

どうやら考えている時間もないらしい。
今しがた手に入れたグレムリンを使うしかなさそうだ。
覚悟を決めて、タラップをのぼる。

操縦棺内部に入った瞬間、内部のシステムが一斉に起動する。
計器が規則的に点滅し、メインモニターが廃工場の風景を写し始める。
外からの目視でも最低限のパーツは付いていた。
コンソールを操作し、システムに異常がないことを確認する。

「動いてくれなきゃ、俺もお前も仲良くスクラップだ。」

操縦席につき、レバーを握りしめつつ、呟く。

「――行くぞ」