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死喰い鳥のザミエル

Day 02 Gremlin Cruiser


【悪鬼巡洋艦】Gremlin-Cruiser
水上艦の一種。外洋を長距離航行することを主眼においたもので、
グレムリン離着陸用の甲板が用意され、グレムリンの運用が可能な軍艦。
軍の機動戦力、傭兵の移動拠点、グレムリンを保有する海上集落などに使用されている。

――虚空辞苑 第七版より


七月戦役終戦にともない、TsCの指導の下、
三大勢力は戦争での消耗だけでなく、軍縮により弱体化を強いられた。
その煽りで多くの軍艦が武装を解除され、民間に売り払われた。
あらゆる者が疲弊した戦後に軍艦を買おうなんて物好きはそういないのではあるが。

ディルク・プライス。当時30歳の義肢医。
ちょうど勤務医から独立開業し、自分の城が欲しかった。
同居人のグレムリンを置くスペースもあるし、造水設備も備えている。
陸地のアパートとガレージのセットを買うより安上がりだ、との言だった。

――丸腰の悪鬼巡洋艦はテララーニャと名づけられ、それから15年。
タワー港湾部に係留され、グレムリンのガレージ付きアパートと義肢診療所として利用され、
動くのは年に一度の点検でタワー周囲を一周する程度。
そんな生活を変えたのは、未識別機動体の侵攻。

世界はわずか10時間の間に謎の敵性存在の手に落ちた。
シーレーンはずたずたに破壊され、空襲や人口密集地での戦闘で、多数の犠牲者が出た。
流通は途絶え、ここにいても物資が尽きれば終わり。
係留している港は船がひしめき合い、空襲があれば一網打尽だ。

もはや、この世界に安全な場所などどこにもない。
船に所属する傭兵に生き残りはいる。稼働するグレムリンも存在する。
座して終わりを待つより、世界を巡って抗おうと。
……そういうことになった。

そう決まった後の行動は迅速だった。
クルーを求人、昔の友人、コネ、あらゆる手段で募り、当座の航海に必要な物資をかき集めた。
そして大破着底した船から申し訳程度の砲塔と対空機銃を譲り受ける。

薄明りに粉塵の赤い靄の煙る、今の虚空領域では「いい天気」と言える朝。
悪鬼巡洋艦テララーニャは、15年ぶりにタワー港湾部を出港する。
こうして、無謀ともいえる俺たちの旅は始まった。