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死喰い鳥のザミエル

Day 03 Lost Number


赤錆びた色の雪が降り積もる。ここは虚空領域の北の果て、ペンギン諸島。
温泉が多く存在する観光地として有名な場所である。
北へ航路を取った理由の一つがペンギン諸島の存在だ。
ここは温泉地。泉質によっては飲める物も存在する。
つまり、人類がそのままで使用できる水が多い地域とも言える。

港にほど近い温泉旅館と交渉し、宿を取ることができた。
未識別機動体の襲撃以降観光どころではなく、従業員に暇を出しているため
普段通りのもてなしはできない、という話ではあったが
閉鎖的な船の生活でのストレスを和らげるための船長の判断だった。

昔の雨音列島の伝統的な様式風の内装の部屋に最低限の荷物を置き、
船員たちが連れ立って温泉へと向かう。
生身の人間より体を洗う手間が少ないザミエルが、他の船員より先に大浴場に足をつけた。

壁には青空のもとに聳え立つ虚空領域北の果ての氷山と氷河が、
近景には冠を戴いたペンギンが描かれているレトロな大浴場だった。
そこには先客がいた。黒ベースのボディに赤いカメラアイが印象的な機人で、
傍には『大吟醸 企鵝大帝』と書かれた酒瓶と杯を載せた盆を浮かべている。

ザミエル「先客がいたか。楽しんでいるところすまない。これから団体が来る。少々騒がしくなる」
ロストナンバー「なに、構わない。……データベースと照合完了、一致率96.1%……ザミエルか」
ザミエル「ん?ああ、俺も有名になったもんだな……あんたは?」
ロストナンバー「俺か?俺はロストナンバー、傭兵のようなものだ」
ザミエル「傭兵か、中々の歴戦の士と見た。見たところ肩のパーツにガタが来ているようだが」
ロストナンバー「そうだな、だいぶ無茶をした。整備の機会も無くてな」
ザミエル「うちの船には技師も乗ってる。しばらく停泊するし、診て貰えないか打診するか?」
ロストナンバー「それは渡りに船だが、いいのか?」
ザミエル「傭兵なんだろ?未識別と戦える奴は1人でも多い方がいい。ただ、俺はいち戦闘員だから交渉は自分でやってもらう形になる」
ロストナンバー「ああ、それで構わない」
ザミエル「OK、1時間後旅館の正面玄関で待っている」

本日のニュースです
ヒルコ・トリフネでは今日も「にわとりさま」の祭事が行われています
「にわとりさま」は食された鶏肉の神と言われています
にわとりさまはどう見てもひよこですが、にわとりさまと呼ばなければ祟られるそうです
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

本日のニュースです
昨日、氷獄にて実戦のさなか映画の撮影が行われました
未識別機動体との戦いを記したドキュメンタリー映画です
いつか、平穏が訪れた時にこの資料がきっと役に立つ
監督はそう口にして、傭兵たちの戦いを追います
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです

~1時間後~

ザミエル「……というわけで、こいつがメンテナンスを望んでる傭兵だ」
ディルク「ぼくはディルク・プライスという。この船の船長兼義肢医をやっているよ」
ロストナンバー「義肢医か、これは心強い。俺はロストナンバー。紹介どおりの傭兵だ」
ディルク「このご時世だ、診るところまでは無償で構わないよ。そこに座っ――」

――船内にアラートが響き渡る。

「緊急警報、緊急警報。上空に未識別機動体を確認、数15、いや、20――繰り返します、緊急警報――」
ディルク「……敵襲か!ザミエルはイゾルフとともに迎撃へ!すまない、ぼくも船員の指揮に入る!」
ロストナンバー「好機だな。俺の有用性を証明しよう」
ディルク「きみも加勢してくれるのか!機体はどこに?」
ロストナンバー「機体なら”ここ”にある。問題ない」
ディルク「……えっ?」

今回の日記はENo.16 Lost Numberをお借りいたしました。
※企鵝=ペンギン、大吟醸は雨音列島伝統の合成穀物酒によく付けられる名称だが、意味は失伝している