年内いっぱいで見られなくなるので保管。
1.強制退去
1997年6月26日。真紅連理レナード・ヘイスティングズ曹長の日記。
つい15分前、我が第10駆逐隊の転進が決定した。
いや、ここは僕の個人的な、ある意味では真紅連理の議員たちでさえ
介在することのできないスペースだから、本当のことを書き連ねようと思う。
転進というと聞こえがいいが、結局のところ我々は敗走を行うのだ。
我々の隊の機甲戦力は半分以上が撃破され、
残りの戦車も被害を軽く見積もっても大破、もしくは中破状態であると言わざるを得ない。
忌々しいが、これでは目敏く事態に介入してきた青花師団の攻勢を
とてもではないが防ぎきることはできないだろう。
しかしこれは、壊滅的な敗北ではない。我々の司令部はいまだ健在なのだから。
タワーに戻った閣下が真紅連理会議を説得できれば、僕たちだけでなく、連理のすべての同胞たちに勝利が訪れる。
翡翠経典の日和見主義者どもと、青花師団の理想主義者どもの脆弱な防衛網を食い破り、
我々の千か年計画の理念を、虚空領域中に行き届かせることができるはずだ……その日が既に待ちきれない。
1997年6月27日。真紅連理レナード・ヘイスティングズ曹長の日記。
真紅連理上層部が我々を裏切ったのか、我々が真紅連理を裏切ってしまったのか、僕にはもうわからない。
とにかく、どこかに逃げなければ。しかしどこへ? 我々に味方はもう存在しない。
こうなれば風の門の果てか、あるいは黄昏の壁の向こう側へか。虚空領域の外に活路を見出すしかないのかもしれない。
あなた達は、ある時、不可思議な研究を行う男の調査を依頼された。
その男は、十年ほど前にラメルド近郊のとある貴族の別荘に勝手に住み着いた『どこから来たのかもわからない人物』だった。
現れた当初も、とあるギルドによって調査と立ち退きの説得が行われたものの、結局「すぐに出ていく」と繰り返しながら
男は空き家に居座り、現在に至るまで、家の所有者の悩みの種となっていたそうなのだ。
とはいえ、物を盗むだとか、暴れるだとかするでもなく、
ただ、機械や資材を買い込んでは黙々となにかの研究を行うだけであったため、
十年もの間、居座ることが許されていたらしいのだが……
最近になって、好奇心から空き家に近づく若者ともめ事を起こしたことから、
改めて立ち退きを勧告しよう、と所有者が決心したのだという。
……そして、あなた達は今、例の貴族の別荘の前に立っている。
男が住み着く前から、古くなっていたため使われていなかったという件の別荘はボロボロだった。
元は立派だったのだろうが、今は別荘というよりは大き目の廃墟といったほうがしっくりくる。
……とにかく、まずは話をしてみよう。
あなた達は、錆びたドアベルで扉を叩いた。
中にいるであろう男に対して、自分たちが依頼を受けてリトル・プロミスから来た冒険者であること、
そして、依頼を受けて立ち退きの交渉にやってきたことを大声を張り上げて何度も呼びかけた。
「く、来るなッッ……! 今はダメだ……!!」
何度か呼びかけた後、中から男の声がした。切羽詰まっているようにも、恐れているようにも聞こえる。
もしかして相手は籠城を決めこむ気なのだろうか。とにかく、話をしなければどうにもならないのだが……
その時だった。
――バキャッ!!
まるで『内部から』毟り取られるように、蝶番ごと大きな扉が外れる。
同時、あなた達の体がふわりと浮き上がり、内部にすさまじい勢いで吸い込まれ始めた!
咄嗟に、何かに掴まろうとするが、捕まろうとした壁板ごと折れて内部に引きずり込まれる……!
■戦闘:がれき×5(ロールなし)
あなた達が再び意識を取り戻したとき、そこは暗く、鉄に覆われた広い倉庫のような場所だった。
あたりには大きな機械の残骸らしきものがいくつも乱雑に置かれており、人の気配もなく、
廃棄場といっても差し支えない雰囲気だ。
ここは一体どこなのか、全くわからない。ラメルドにはいくつもの世界から人々が訪れているため、
どこかしら工業技術の進んだ世界からやってきた『企業』という組織の倉庫にでも移動したのか?
とも思ったが、積もった埃や古い油汚れはこの場所に少なくとも数年、誰も入っていない事を示していた。
「ここは……虚空領域か……? やった、オレは戻ったんだ! やったぞ! やった!!」
と、あなた達の近くで声を上げるものがあった。
乱れた長髪と髭面の男の声は、例の屋敷で聞いたものと同じだ。
男は極度の興奮状態であなたたちに目もくれず、
近くにあった布をかぶせられた大きな物体から、
四苦八苦しながら布を取り払う。
「ダンデライオン・ファング!? いや、新型機か? とにかくこの紋章は翡翠経典のものに違いない!!」
「どこの船団かはしらんが、虚空領域に間違いない! 俺は、オレは帰ったぞ!!」
2.虚空領域
「ダンデライオン・ファング!? いや、新型機か? とにかくこの紋章は翡翠経典のものに違いない!!」
「どこの船団かはしらんが、虚空領域に間違いない! 俺は、オレは帰ったぞ!!」
男が布をはがすと、そこから出てきたのは巨大な鉄の塊――
既に機能を停止しているようだが、大型のゴーレムのように見える。
とにかく、訳が分からない。
なんとかあなた達は男を呼び止めて、事情を聞こうと試みたのだが……
――BEEP! BEEP! BEEP!
本能的に危険を知らせるような、機械の警報音と共に赤いランプが四方八方に灯る。
同時に、四方から重い扉が開くような音が響き、明らかに何かがこの広大な倉庫に入ってくるような気配がした。
「レベル2クリアランス必須区画に、ID非所持者の侵入を確認しました」
「ID所持者はその場から動かず、担当部隊のチェックを受けてください」
あなた達は危険を感じ、とっさに物陰に隠れたが、
男は逆に、近づいてくる気配に対して自分はここだという風に大声を張り上げた。
「どこの連中でもいい! 俺はここだ! ここにいる!! 保護してくれ!!」
「――侵入者を発見。データベース検索します。」
男の周囲に、無数に小型の機械の目玉のようなものが浮遊し、なにか光のようなものを投射している。
そして……
――シュパッ
先ほどまで投射していた光とは少し違う、細い光の筋を男の胸めがけて放ち……
「あ……?」
それを受けた男は、何が何だかわからないという風で一瞬立ち尽くしたが
次の瞬間、ごぽりと口から鮮血を粘っこい水音と共に掃き出し、その場に倒れた。
「重指名手配犯罪者レナード・ヘイスティングズを略式処分しました」
訳もわからぬまま、止める間すらないほど簡単に。
最もこの状況の情報を持っていたであろう、男が殺害されてしまった。
「付近に生命活動を感知。クリアランスID所持反応なし、データベース検索します」
例の機械の目玉は、どうやったのかあなたに感づいたようで、
ぐりん、と空中であなたのほうに向き直り近づいてくる。とにかく、何が何だかわからないが、
身を護らなければ……あなた達は己の得物を構え、近づいてくる機械の目玉を迎撃する。
■戦闘:対人自動攻撃用ビット×5(ATK)
あなた達の周囲をまとわりついてくるように浮遊する機械を叩き落す。
しかし、そうこうしているうちに多数の足音が近づいてくるのが聞こえた。
「どこからどうやって入り込んだかはわからないが侵入者らしい」
「先行した自動巡回無人機が一人『処分』した。どうやら、ふむ……面白いデータが来てるぞ」
「処分したのは既に20年も前に、全滅したはずの真紅連理強硬派の残党だ。
どうして今頃になって這い出してきたのかわからんが……」
現れたのはあからさまな殺気を纏った、見たこともない武器で武装した兵士たちだった。
この様子では出ていって敵意がないことを伝えようにも、先ほどの男の二の舞になるのがオチだ。
あなた達は物陰を伝いながら、とにかくこの場から離れるべく、ゆっくりと移動するのだった。
3.鹵獲機体
あなた達は、どうにか人の気配が無くなるまで広大な倉庫の中を移動した。
しばらく歩いていると先ほどとは別の区画に入ったのか、
どちらかといえば乱雑に放置された壊れた機械などは少なく、まだいくらか整然としている雰囲気を受ける。
……そして目を引くのは、巨大な鋼鉄製の門。
びゅうん、という風音が外から微かに聞こえてくるあたり、この門の外は野外に通じているのだろうが……
門の分厚さはかなりのもので、人の手で壊せるものにはないように見えるし、かといって
十分な破壊力のある大魔術などを炸裂させれば自分たちが巻き添えを喰らわないとも限らない。
どうしたものか、と考えていたあなた達が目を付けたのは、係留されたまま眠っている大型のゴーレムのような機械だった。
大型の砲や人間ではとても持てない大きさのブレードなどを備えたそのゴーレムの胸部には、ちょうど人一人が収まることのできる
座席が用意されており、明らかに乗り込めるようになっている。
こうした人が乗り込んで操作するタイプのゴーレムというのは、たまに魔導士や錬金術師がつくるタイプのものだ。
あの武装を使えば、この分厚い門も破壊できるかもしれない……。
あなた達は、意を決してその内部に乗り込んだ。
とはいえ、最初からこれを操作できるなどとは思っていない。どこかに操作マニュアルなどがあるのではないか、と座席内を探して
砲やブレードの操作だけでもできれば……という考えだったのだが。
「オペレーティングシステムを起動。駆動系および制御系に軽微な損耗を確認。
思念制御システム試製型ver0.31の補正値を最大値に設定します。手動操作に切り替える場合は管制室の……」
空中に文字と絵図のようなものが投射されたかと思えば、
不意に胸部を装甲が覆うように動き、脱出する暇もなく閉じ込められてしまう。
いけない、何とか外に出なくては!
……と思った時だった。
「搭乗者の思念を検知。グレムリンからの乗降シークエンスを開始します」
という文言が表示され、空気圧の抜ける音と共に再び装甲が開いた。
思念を検知。まさか……と思い、右腕を動かすと念じてみる。すると……
やや遅れて、ギュイイ、というややさび付いた音を響かせながら右腕が動いたではないか。
どうやらこのゴーレムは頭で念じることで、動かすことができる機能がついているらしい。これならば――
あなた達は、大型ゴーレム――『グレムリン』に乗り込み、大きな鋼鉄の扉の破壊に乗り出した。
■戦闘:鋼鉄の扉×1(TANK)
『グレムリン』の戦闘能力は圧倒的だった。
ほぼほぼ1m近くはあった、鋼鉄の扉はまるでバターを切るかのように溶断され、
粉塵漂う海があなた達の目の前に姿を現す。
行く当てはないがとにかくこのまま、この場を早く離れよう……
4.強行突破
『グレムリン』に乗り、扉を溶断して外へと出る一行。
そこは巨大な堰のふもとだった。まさしく見上げるほど高い壁の向こうに、
さらに長大な塔が鎮座し、その上にはいくつもの光の柱が瞬いている。
ラメルディアにこのような超巨大建造物があるという話は聞いたことがない。
それに、この粉塵と広大な海。もしかすると、別の地域……あるいは世界に来てしまったのか?
――そんなことに思いをはせる暇すら、我々には与えられていなかった。
不意に、あなた達の足元で小爆発がおきる。
――ドタタタタタタタッ!!
近くにあったトーチカから、不意に攻撃が我々に加えられたのだ。
外に出るためとはいえ、流石に注意を引きすぎたか。
こうなっては戦うしかなさそうだ……!
■戦闘:無人トーチカ×2(TANK)無人攻撃機×3(ATK)
最小限の反撃を行いながら、あなた達は堰のふもとから逃げ出していく。
幸い、この『グレムリン』は水上でも活動できるようにフロートやジェットと言った機構がついているようで、
海に乗り出すには困らなかった。
もう三時間ほど、一直線に逃げただろうか。
追手の類もなんとか撒いたようで、
もはや静かに寄せては返す海の波の音が粉塵の中から響いてくるだけだ。
流石に、疲れた。おそらくはもう夜だ。
今日は、このまま機体の中で眠りにつくとしよう……
それから、目を覚ますとあなた達は見覚えのある館の中で倒れていた。
あの依頼で赴いた、謎の人物が住み着いているという貴族の館だ。
装備などにもまったく異常はない。夢か、幻覚で見ていた……にしてはあの油と硝煙の匂い、
そしてまとわりつく粉塵の感覚はあまりにもリアルだった。
……その後、改めて館を捜索したところ、例の男はどこにも見当たらず結局、
いつのまにかどこかに去ったのだという形でこの件は片が付いたのだが……
結局、あの記憶は一体なんだったのだろう……。
2021年XX/XX タワー南部・風の門下部での交戦記録
14:05
風の門下部の廃棄された旧工廠部に侵入者を検知。すぐさま巡回の歩兵隊が現場に急行し1人を射殺。
歩兵隊によって七月戦役の前哨戦となった港湾区画の戦いにて、
各勢力から指名手配中のレナード・ヘイスティングズ元真紅連理曹長であると確認。
14:39
風の門下部、旧工廠部にて旧型グレムリン『ビリジアン・ソウル』以下数機が起動。
おそらく、旧真紅連理過激派の残党が駆動可能状態であった退役済みのグレムリンを鹵獲したものと思われる。
14:58
風の門下部の無人迎撃用トーチカ、および迎撃用の無人攻撃機が数機破壊されたものの、人員被害はなし。
その後、鹵獲グレムリンは風の門から南へと逃亡を開始する。
15:45
逃亡機の信号を喪失。
16:28
未識別機動体の風の門領域侵入を確認、おそらく今回の鹵獲事件とは
無関係の偶発的なものと考えられるが対応のため逃亡機の捜索を断念。
……この件に関して、情報は少ないが既に全滅したと考えられていた
真紅連理過激派の再始動という可能性を考慮し、リスクも含めて継続的な調査が必要と思われる。